字幕づくり 第16回


今回は "Amy Winehouse" の "Rehab" に挑戦。




2011年夏、彼女が27歳の若さでこの世を去ったと聞いた時、
「まさか」という驚きと「やっぱりな」という諦念、
相反する思いに駆られた事を覚えています。

ドラッグとアルコールにまみれ、夭逝したこの天才歌手。
グラミー賞5部門受賞に導いたのがこの曲というのは、
なんとも彼女らしいです。

第50回グラミー賞(2008年)
年間最優秀レコード賞、年間最優秀楽曲賞、最優秀新人賞、
最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞、
最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞 受賞






- Lyrics -


They tried to make me go to rehab but I said, 'No, no, no.'
Yes, I've been black but when I come back you'll know, know, know
I ain't got the time and if my daddy thinks I'm fine
He's tried to make me go to rehab but I won't go, go, go

I'd rather be at home with ray
I ain't got seventy days
'Cause there's nothing
There's nothing you can teach me
That I can't learn from Mr Hathaway

I didn't get a lot in class
But I know it don't come in a shot glass

They tried to make me go to rehab but I said, 'No, no, no.'
Yes, I've been black but when I come back you'll know, know, know
I ain't got the time and if my daddy thinks I'm fine
He's tried to make me go to rehab but I won't go, go, go

The man said, 'Why do you think you're here?'
I said, 'I got no idea
I'm gonna, I'm gonna lose my baby
So I always keep a bottle near.'
He said, 'I just think you're depressed,
Kiss me, yeah baby, and go rest.'

They tried to make me go to rehab but I said, 'No, no, no.'
Yes, I've been black but when I come back you'll know, know, know

I don't ever wanna drink again
I just, ooh, I just need a friend
I'm not gonna spend ten weeks
Have everyone think I'm on the mend

It's not just my pride
It's just 'til these tears have dried

They tried to make me go to rehab but I said, 'No, no, no.'
Yes, I've been black but when I come back you'll know, know, know
I ain't got the time and if my daddy thinks I'm fine
He's tried to make me go to rehab but I won't go, go, go






※今回のポイント※


この曲は、日本ではまだ馴染みの薄いテーマを取り上げています。
まずは全体像をしっかり捉えないと、ちぐはぐな訳に。
そして、雰囲気を出すためには、整然とした文章ではなく、
あえて支離滅裂な感じを出す方向にします。
少し意識が朦朧としたイメージで。







They tried to make me go to rehab but I said, 'No, no, no.'
Yes, I've been black but when I come back you'll know, know, know


"rehab"
タイトルでもあるこの言葉、"rehabilitation" の略です。
でも、我々が普段使う「リハビリ」とはニュアンスが違います。
「麻薬・アルコール中毒からの更正」の意味です。
特にこの場合、その「更生施設」になります。

これは彼女自身の経験から生まれた曲なんですね。

今回は、先に進むにつれてどんな場所なのかは分かるので、
あまり字幕で説明はしません。
最初だけ "rehab" の音を残したいので
「リハビリ施設」とし、その後はただ「施設」としました。


"They tried to make me go to rehab"
"make me ~" は「強制的に~させる」とういうイメージ。
「彼らはなんとか私をリハブに行かせようとした」


"I've been black"
この "black" は心情的なものです。
「気持ちは真っ黒」=「どん底」という所。
もちろん「私はクロよ」=「確かに依存症よ」 という
ダブルミーニングでもあると思います。 



”リハビリ施設に
 押し込もうとするけど
 イヤ 絶対に

 確かに どん底
 でも 帰ったら ―
 あんたにも分かるはず"









I ain't got the time and if my daddy thinks I'm fine
He's tried to make me go to rehab but I won't go, go, go


"I ain't got the time" は「私には時間がない」とか
「そんな時間はない」と訳している人が多いです。
でも、そうすると次の部分
「ダディが”私が大丈夫"だと思っているなら」
との関連性がおかしくなってしまいます。

この場合は "the time"=「施設に入ること」と捉え、
「そんな必要はない」とフレキシブルに考えましょう。


"He's tried to make me go to rehab"
これは前の文からの流れが大事です。
父親が「大丈夫」だと思っている内はいいけど、
「そうじゃないと分かったら、結局は施設に入れられちゃう」
って事ですよね。


”そんなのは必要ないの
 「娘は元気」
 パパがそう思ってるなら

 パパにバレたら
 施設に入れられちゃうけど
 行かないわ 絶対に"







I'd rather be at home with ray
I ain't got seventy days
'Cause there's nothing
There's nothing you can teach me
That I can't learn from Mr Hathaway


"would[had] rather" は「むしろ~したほうが良い」

"ray" は、偉大なる「ソウルの神様」である
「レイ・チャールズ」の事です。

"Mr Hathaway" は "ray" との対比で考えると、
いわゆる「ニュー・ソウル」の旗手である
「ダニー・ハサウェイ」という事になります。

音楽性の対比というのは勿論あるでしょうが、
重度の麻薬中毒を克服したレイ・チャールズ、
統合失調症のため33歳の若さで転落死したダニー、
その違いに思う所もあったのではないでしょうか?


”家で レイ・チャールズを
 聴いてた方がマシ

 時間のムダよ
 70日間も

 だって 何もないじゃん
 そして ―
 何ひとつ教わることもね
 学ぶことなんてないわ
 ダニー・ハサウェイからは"







I didn't get a lot in class
But I know it don't come in a shot glass


"class" を「授業」=「学校」と訳している人がほとんど。
この曲の内容を良く考えたら、スマートな訳とは言えません。

彼女は以前、この施設に入れられた経験があるんですね。
だから、「(以前ここで受けた)講習」でしょう。

依存症である彼女の朦朧とした頭の中を、
字幕で表現していきます。


”講習じゃあ
 何も得られなかったわ

 だけど それが ―
 ショットグラスに
 つがれて来ないのは分かる"







The man said, 'Why do you think you're here?'
I said, 'I got no idea
I'm gonna, I'm gonna lose my baby
So I always keep a bottle near.'


ここで重要なのは、"The man" というのが、
その施設の医者かカウンセラーという事。
その男と彼女の会話(診察)です。
彼女の頭の中は、普通の人からしたら支離滅裂です。


”そいつが言うの
 「どうして ここにいると思う?」

 答えたわ
 「全然 分かんない」

 大切な ―
 あの人を失いそうなの
 だから
 いつだってボトルを ―
 そばに置いとかなくちゃ"








He said, 'I just think you're depressed,
Kiss me, yeah baby, and go rest.'


ここは、先ほどの会話を受けて、
その男が決して親身ではなく(そのフリはしているが)
毎回他の患者にもする、おざなりな対応をしている。
そんな風に考えられます。


”「君は欝だよ」そいつは言う
 「キスして」
 「あとは おやすみ」"







I don't ever wanna drink again
I just, ooh, I just need a friend
I'm not gonna spend ten weeks
Have everyone think I'm on the mend


"Have someone think ~" は
「someoneに、~だと思ってもらう」

"on the mend" は「治りかけている」とか
「好転している」という意味。


”もう飲みたいなんて思わないわ
 ただ ―
 友達が必要なだけ

 費やしたくないの ―
 10週間も

 快方に向かってるって
 分ってもらうの"







It's not just my pride
It's just 'til these tears have dried


”プライドなんかじゃないわ
 ただ この涙が ―
 乾くまでのハナシよ"





結局、彼女はわずか2枚のアルバムと8枚のシングルを残し、
この世を去りました。

他には、ベッドルームに残したウォッカの空き瓶2本だけ。

そんな彼女の作品は、同世代の他のアーティストとは違う、
鈍い光を放ち続けると思います。





いやぁ、字幕って本っ当に難しいもんですね。
ではまたお会いしましょう。







↓ 今回の曲はコチラ ↓


Amy Winehouse - Rehab







収録アルバム
バック・トゥ・ブラック
エイミー・ワインハウス
USMジャパン
2009-03-04


収録アルバム(MP3)





↓ ライブパフォーマンスはコチラ ↓
 
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もっと生きて欲しかった……
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エイミー・ワインハウス
USMジャパン
2013-03-06