字幕づくり 第45回


今回は "Sam Smith" の "Writing's On The Wall" に挑戦。




日本では、12月4日公開予定の映画「007 スペクター」の主題歌。
毎度のことながら、年末にぶつけるため、わざと2ヶ月遅れの公開。
待ち遠しいです。
















- Lyrics -


I've been here before
But always hit the floor
I've spent a lifetime running
And I always get away
But with you I'm feeling something
That makes me want to stay

I'm prepared for this
I never shoot to miss
But I feel like a storm is coming
If I'm gonna make it through the day
Then there's no more use in running
This is something I gotta face

If I risk it all
Could you break my fall?

How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
For you I have to risk it all
Cause the writing's on the wall

A million shards of glass
That haunt me from my past
As the stars begin to gather
And the light begins to fade
When all hope begins to shatter
Know that I won't be afraid

If I risk it all
Could you break my fall?

How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
For you I have to risk it all
Cause the writing's on the wall

The writing's on the wall

How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
For you I have to risk it all
Cause the writing's on the wall









※今回のポイント※

ラブソングの体は保っていますが、明らかに「ジェームズ・ボンド」の曲。

ネット上の秀逸な煽り文句として、
「文系は作者の気持ちでも考えてろ!」というのがあります。
しかし、今回は作者の気持ちではなく「ボンドの気持ち」を考えます。

サム・スミス自身も「初めてのキャラクターソング」と言っている通り、
完全にこの映画のために作られています。

恐らく、シナリオを読み込んで生まれた曲。
そうであれば、タイトルの "Spectre" も重要な意味を持つハズ。

"spectre"(米語では "specter")は、いわゆる「亡霊」。
そして、007の宿敵である犯罪組織「スペクター」です。


この辺りをしっかりと押さえた上で取り組みます。









I've been here before
But always hit the floor
I've spent a lifetime running
And I always get away
But with you I'm feeling something
That makes me want to stay


"hit the floor"
単純に「床を打つ」なんですが、状況によって全く意味が変わります。
パーティーであれば「激しく踊る」
色事であれば「激しくエッチする」(ベッドの足が床を叩くから)
また「突っ伏す」「寝る」意味もあれば、
反対に「起きる」「目を覚ます」にも。(跳ね起きるイメージ)
今回はどう訳しましょうか……
007なので「伏せる」はどうでしょう?
銃撃戦で床に倒れこみ、弾を避けるイメージ。

"But with you I'm feeling something
 That makes me want to stay"
「だけど、君といると俺は何かを感じる」
「それが、俺をここに居たくさせる」
こういうのを、いかにまとめるかが腕の見せ所。

次のようにしてみました。



 かつて この場所に居たんだ
 だけど いつも身を伏せていた
 生まれてから ずっと走り続け ―
 そして いつも逃れてきた
 でも君は 俺の心を揺さぶり ―
 「留まりたい」と思わせる








I'm prepared for this
I never shoot to miss
But I feel like a storm is coming
If I'm gonna make it through the day
Then there's no more use in running
This is something I gotta face


"be prepared for" は「~に備える・構える」

"If I'm gonna make it through the day"
"gonna make it" は「何とかする」なので、
直訳は「その日を、何とかやり過ごす」です。
これじゃあカッコ悪い……。
「切り抜ける」なんてどうでしょう?
いやいや、「生き延びる」の方がハードボイルドですね。



 覚悟は できているさ
 狙いは 外さない
 だが 嵐が近づいている
 その日を 生き延びられたなら ―
 もう 走る意味などない
 そう これは向き合うべきこと










If I risk it all
Could you break my fall?


ここは、力量の差が表れそうな部分。

まず先に "Could you break my fall?"
"break my fall" は単純に言うと
「私の落下の衝撃を壊す(弱める)」ということ。
つまりこれは、「倒れそうになる俺を、助けてくれるかい?」
もしくは「崩れそうになる俺を、支えてくれるかい?」です。

でも、重要なのは "If I risk it all" の方。
"risk it all" は「全てを危険に晒す」とも言えますし、
「全てを賭ける」とも言えます。
でも、もう少し伝わるようにしたい。

そこで考えました。
ジェームズ・ボンドにとって、一体どういう状況かを。

これは、この物語の鍵となるディーバ……心を惹かれた女性への想い。

MI6の諜報員「007」である、ジェームズ・ボンド。
その彼が、特定の一人の女性を愛することの意味。
たった一人の「誰か」を愛する……
それは、国家への裏切り。

つまり、彼にとって「愛」を貫くことは、
一人では到底太刀打ちできない「巨大な犯罪組織」と、
自分が「忠誠を捧げてきた国家」、その双方から追われるという意味。

それは、愛のために何もかも捨て去るという、断固たる決意。
そう、「捨て去る覚悟」です。



 俺が 全てを投げ打てば ―
 君は 支えてくれるかい?









How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
For you I have to risk it all
Cause the writing's on the wall


"I give it all up"
「全てを諦める」ですが「全てが終わる」と意訳。

"the writing's on the wall"
タイトルでもあるこのフレーズ。
これは旧約聖書の「ダニエル記」にあるエピソードがもと。
簡単に説明すると、バビロン王の宮殿に「手」が現れて壁に文字を書き、
その予言の通りバビロン王国が滅びた……というもの。
そこから、「嫌な予感がする」という意味の慣用句になりました。
でも、「嫌な予感」では、"spectre" の雰囲気に合いません。
災いや不吉なことの「前兆」の方がいいですね。



 どう 生きれば?
 どう 息をすれば?
 君がいなければ 息もできない
 愛を感じたい ―
 この血を 巡る愛
 教えてくれ 全てがここで終わるのか
 君のため ―
 全てを 賭けなければ ・・・
 不吉な "兆し" を見たから










A million shards of glass
That haunt me from my past
As the stars begin to gather
And the light begins to fade
When all hope begins to shatter
Know that I won't be afraid


"A million shards of glass" 「百万ものガラスの破片」
「百万」の部分を「数え切れぬ」に意訳。

"That haunt me from my past"
「それ(破片)が、俺の過去から纏わりついてくる」
今回の映画も、ボンドの過去に深い関わりがあるそうです。
それならば、ここは「逃れられぬ俺の過去」にしましょう。



 数え切れぬ ガラスの欠片 ―
 逃れられぬ 俺の過去
 星々が 収束し ―
 光が 薄れていく
 全ての希望が 砕かれゆく時も ―
 俺は 決して恐れないから ・・・









If I risk it all
Could you break my fall?

How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
For you I have to risk it all
Cause the writing's on the wall

The writing's on the wall


ここは、最後の繰り返し部分である、
2回目の "The writing's on the wall" が重要。
先ほどと同じ「不吉な兆し」と訳しては面白くありません。
演出することを意識します。



 俺が 全てを投げ打てば ―
 君は 支えてくれるかい?

 どう 生きれば?
 どう 息をすれば?
 君がいなければ 息もできない
 愛を感じたい ―
 この血を 巡る愛
 教えてくれ 全てがここで終わるのか
 君のため ―
 全てを 賭けなければ ・・・
 不吉な "兆し" を見たから

 あの "壁に刻まれた文字" ・・・




考えたんです。
もしかしたら、この "The writing's on the wall" は、
単なる「予感」ではないかも知れないと。

実際に壁に書かれた、ボンドへの「警告」の可能性もあると。
そこで、あえて「壁に刻まれた文字」と直接的な表現に。

これで「ダニエル記」を想起する人がいるかもしれませんしね。











How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
How do I live? How do I breathe?
When you're not here I'm suffocating
I want to feel love, run through my blood
Tell me is this where I give it all up?
For you I have to risk it all
Cause the writing's on the wall


さあ、フィニッシュです。
しっかりと余韻を残せる字幕を目指します。



 どう 生きれば?
 どう 息をすれば?
 君がいなければ 息もできない
 愛を感じたい ―
 この血を 巡る愛
 教えてくれ 全てがここで終わるのか

 どう 生きればいい
 どう 息をすればいい
 君なしでは 息もできないんだ
 愛を感じたい ―
 この身に 流れる愛
 教えてくれ 全てが終わってしまうのか
 君のため ―
 俺は 全てを賭ける

 見てしまったんだ
 あの ―
 "兆し" を ・・・







ちなみに、英国人男性が「007」のテーマ曲を歌うのは、
「サンダーボール」のトム・ジョーンズ以来、なんと50年ぶり。

歴史がすごい。




いやぁ、字幕って本っ当に難しいもんですね。
ではまたお会いしましょう。





※ 2015年12月14日 追記 ※
雑記 - わやQ、『007 スペクター』観たってよ





↓ 今回の曲はコチラ ↓


Sam Smith - Writing's On The Wall















007 コレクターズ・ブルーレイBOX(24枚組)(初回生産限定) 007/スペクター収納スペース付 [Blu-ray]
ショーン・コネリー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2015-10-07



007/ダニエル・クレイグ ブルーレイコレクション(3枚組) [Blu-ray]
ダニエル・クレイグ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2015-10-07


007/ピアース・ブロスナン ブルーレイコレクション(4枚組) [Blu-ray]
ピアース・ブロスナン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2015-10-07


007/ショーン・コネリー ブルーレイコレクション(6枚組) [Blu-ray]
ショーン・コネリー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2015-10-07