「中傷だ!」





わやQの映画語り 第1回


『アマデウス』(Amadeus) - 1984年 アメリカ
監督:ミロス・フォアマン
原作・脚本:ピーター・シェーファー
音楽・指揮:サー・ネヴィル・マリナー
主演:F・マーリー・エイブラハム







世の中には、答えられない質問がある。
「今まで観た中で、最高の映画は?」
「人生でトップ10の映画は?」
「一番好きな映画は?」
こういう質問に答えるのは、全くもって無意味だと思う。

なぜなら、「良さ」や「好き」には基準がないから。
絶対的な基準がないのだから、甲乙はつけられない。
もし、無理に基準を作り、総合点で決めるのであれば、
それは無味乾燥のランキングになってしまう。
だから、そういう質問には、相手に合わせて適当に答える。


でも、同じような質問でも、
「無人島に10本だけ映画を持って行けるとしたら?」
「一生、今選んだ10本の映画しか観られないとしたら?」
みたいな他愛もない会話であれば、逆に悩み込む。



今回の『アマデウス』は、わやQにとって「無人島10本」の候補。
間違いなく、真っ先に候補に挙げます。
 

この映画との出会いは、公開されてから何年も後。
おそらく、NHKあたりで放映されたのを観たのだと思います。
吹き替えではなく、字幕でした。
「中傷」「なかきず」と読んでしまうくらい子どもでした(笑)

でも、子どもながらに強く印象に残ったのでしょう。
それから、録画したのを、何度も何度も繰り返し観ました。
そして、「映画館で観たかった」と思うようになります。


その願いが叶うのは、かなり後のこと。


それは、世紀の変わり目の頃のお話。
語学研修の名目で、しばらくフランスに居たことがあります。
勉強はそっちのけで、毎日のように美術館に入り浸っていました。
 
午前はオルセー、午後からはモネの睡蓮の前で半日過ごす。
そんな日の帰り道、いつもと違う道で、それを目にしました。
『アマデウス』の看板……リバイバル上映です。
確か「道化師」という名前の劇場だったと記憶しています。

なんと、時間までピッタリのタイミング。
すぐにチケットを買い、フランス語字幕のそれを鑑賞。
何度も観た映画ですが、本当に格別でした。


そんな思い出も含め、やっぱりこの映画は特別なんです。






さて、肝心の中身について。
細かい内容などは、レビューが溢れているので書きません。


ここでは、やはり「音楽」について考えます。


音楽監修と指揮を務めたのは、サー・ネヴィル・マリナー。
モーツァルト研究の第一人者です。

クライマックスに「レクイエム」の作曲シーンがあります。
サリエリに「代筆」を依頼するシーン。
ここで流れる「呪われ退けられし者達が」の部分がハイライト。

クラシックは、指揮者によって楽曲の表情が全く違います。
ここでの演奏は、「名盤」と呼ばれたベーム指揮のものとも、
「帝王」カラヤンのものとも、やはり違うんですよね。

何と言えばいいのでしょう?
「鬼気迫る感じ」と「悲壮感」とが一体になって、
「この映画のこのシーンのため」という気がします。
他の演奏では、きっとダメだったろうなと。
もちろん、勝手な感想でしかないのですけれど……。



何にせよ、音楽の使い方は非常に上手い。
元もとの楽曲が素晴らしいのは当然ですが、
クラシックに興味のない人にも、分かりやすい構成です。
全編「英語」という部分を「映画だから」と割り切れば、
歌曲の入門としても「大いにアリ」でしょう。

ミステリー仕立てだから、長丁場でも飽きませんしね。





ラストシーンは、何度観ても感動します。

神父を残し、去り行く老人の姿。
そこに優しく「ピアノ協奏曲第20番」が流れ……
モーツァルトの「あの」笑い声が重なる。
最高に美しいエンディングではないでしょうか?

I am a champion. 





2015年10月22日 わやQ










【余談】

先ほど、この映画は「歌曲の入門としてもアリ」と書きました。
「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「魔笛」など、
オペラの有名どころのハイライトが挿入されてるんですね。

モーツァルトは、様々な歌曲を残しました。
例え詳しくなくても、知っている曲や題名があるハズ。

そんなことを考えていたら、この体験談を思い出しました。


わやQは、学生時代の一時期「コーラス」をやってたんです。
賛美歌や唱歌、果ては2時間を越える大曲まで、色々と経験しました。
その時の定期演奏会でのお話。

入場の際、曲のリストと一緒に、アンケート用紙を配るのが通例でした。
お客様の生の声って大切。

演奏会が終わり、回収したアンケートに目を通していた時です。
「とても素晴らしかったです」の言葉に目が止まりました。
素直に嬉しい言葉ですからね。
 
そこには、どこがどういう風に素晴らしかったのか、
少し「玄人」っぽい感じで感想が書かれていました。

ちょっと上から目線でしたが、好意的な文章です。
みんな、顔がほころびました。

でも、次の一文を読んだ瞬間、全員の表情が強張ります。
そこに書かれていたのは……








「次回は、フィガロ作曲の『結婚』をやって欲しい」









ええぇ……まさかの知ったかぶりぃ……!?



でも、もしかしたら私が知らないだけかもしれません。
フィガロという作曲家がいて、「結婚」という曲を作った可能性も……。

そしたら、この「知ったかぶり」発言に対して、こう返されちゃう




「中傷だ!」






アマデウス ディレクターズカット [Blu-ray]
F・マーリー・エイブラハム
ワーナー・ホーム・ビデオ
2010-04-21







サントラは、これが間違いなく決定版!