字幕づくり 第64回
今回は "Wham!" の "Last Christmas" に挑戦。
クリスマスの恋は実らないんです。
古今東西、そうと決まっているんです。
「イヴにキメるぞ!」なんて意気込んでいる君。
およしなさい。
クリスマス・イヴに幸せな時間を過ごせるのは、
とっくの昔に、深い関係になっている人だけです。
それは、もう12月に入った段階で、
「今年のケーキどうする?」って、
家族や親戚の勤め先、もしくはバイト先の、
ノルマ達成に協力させられるくらいの間柄です。
何が言いたいかと言うと、
「クリスマスまで待たずに、今すぐ告って来い!」
そうしたら、「きっと君は来ない」とか言わずに、
友達や家族と楽しいパーティーが過ごせますよ。
今なら、色んなキャンセル料も安くつきますよ。
いつだって勝負は、遥か以前に決しているんだ!
ごめんなさい、なんか興奮してしまいました……。
- Lyrics -
[Chorus (2x):]
Last Christmas
I gave you my heart
But the very next day you gave it away.
This year
To save me from tears
I'll give it to someone special.
Once bitten and twice shy
I keep my distance
But you still catch my eye.
Tell me, baby,
Do you recognize me?
Well,
It's been a year,
It doesn't surprise me
(Merry Christmas)
I wrapped it up and sent it
With a note saying, "I love you,"
I meant it
Now I know what a fool I've been.
But if you kissed me now
I know you'd fool me again.
[Chorus 2x]
Oh, oh, baby.
A crowded room,
Friends with tired eyes.
I'm hiding from you
And your soul of ice.
My god I thought you were someone to rely on.
Me? I guess I was a shoulder to cry on.
A face on a lover with a fire in his heart.
A man under cover but you tore me apart, ooh-hoo.
Now I've found a real love, you'll never fool me again.
[Chorus 2x]
A face on a lover with a fire in his heart (I gave you my heart)
A man under cover but you tore him apart
Maybe next year I'll give it to someone
I'll give it to someone special.
Special...
Someone...
※今回のポイント※
すでに、スタンダードナンバーの風格を持つ曲ですが、
意外にも歌詞はスタンダードではありません。
まあ、本来ポップソングですからね。
ラップではないんですけど、韻を重視した歌詞です。
むしろ、韻を踏むための言葉選びです。
こういうの、訳する時にとても困ります。
字幕にする場合は尚更。
あと、急に会話調になったりしますので、
そこら辺でも結構振り回されます。
振り落とされないよう、気をつけて行きましょう。
ベルトは固定しましたか?
Last Christmas
I gave you my heart
But the very next day you gave it away.
This year
To save me from tears
I'll give it to someone special.
"the very next day"
この "very" は、ただの強調です。
"give ~ away"
「与える」と「離す」で、なんとなく分かる気もしますが、
やっぱりちょっと説明しづらい感じ。
「贈る」「渡す」の意味の他に、
「(ただで)配る」「捨て値で売る」とも使います。
今回は、「ないがしろにされた」「捨てられた」のイメージ。
"save from ~ "
「~ 守る(救う)」=「~せずに済ませる」
クリスマスに 愛を捧げたけど
次の日 君は ―
放り投げたよね
今年は 涙を流さないよう ―
他の誰かに 捧げるよ
去年は 君に愛を捧げたけど
それは 次の日 ―
捨てられていた
今年は 泣きたくないからさ ―
他の誰かに 捧げるよ
Once bitten and twice shy
I keep my distance
But you still catch my eye.
Tell me, baby,
Do you recognize me?
Well,
It's been a year,
It doesn't surprise me
"Once bitten and twice shy"
日本の諺で言えば、
「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」
"you still catch my eye"
「君はまだ僕の目を惹きつける」ですが、
ここは「君から目が離せない」と意訳。
"Well,
It's been a year,
It doesn't surprise me"
会話調ですね。
「まあ、一年経ってるし(僕を忘れてても)驚かないよ」
これを字幕にする為には、やっぱり意訳が必要です。
読んだ人の頭の中で、補完してもらいましょう。
"一度噛まれると 二度目は臆病に"
近づかないよう ―
でも 君から目が離せない
あのさ ―
僕を 覚えてる?
まあ 一年も経つし ―
仕方ないよね …
I wrapped it up and sent it
With a note saying, "I love you,"
I meant it
Now I know what a fool I've been.
But if you kissed me now
I know you'd fool me again
"I meant it"
「本気だよ!」的なニュアンスで使われますが、
字幕では尺が足りません。
「心から」と意訳し、直前の歌詞に繋げました。
"Now I know what a fool I've been"
「今になってみると、自分が愚かだったって分かる」
短く「ホント、馬鹿だったよね」と意訳。
"I know you'd fool me again"
「君はまた、僕を愚かにするだろうね」
=「また君に夢中になってしまうよ」
ここは、更に意訳して「同じ過ちを繰り返しそうさ」に。
キレイに包んで 送ったよ
"愛してる" と添え … 心から
ホント 馬鹿だったよね
でも いまキスをくれたなら ―
過ちを 繰り返しそうさ
クリスマスに 愛を捧げたけど
次の日 君は ―
放り投げたよね
今年は 涙を流さないよう ―
他の誰かに 捧げるよ
去年は 君に愛を捧げたけど
それは 次の日 ―
捨てられていた
今年は 泣きたくないからさ ―
他の誰かに 捧げるよ
A crowded room,
Friends with tired eyes.
I'm hiding from you
And your soul of ice.
My god I thought you were someone to rely on.
Me? I guess I was a shoulder to cry on.
"My god I thought you were someone to rely on"
"rely on" は「頼られる」とか「信頼を置ける」とか、
もっと言えば「心の拠り所(になる)」の意味。
ここは、「ああ!君を信じていたなんて!」と意訳。
"a shoulder to cry on"
「泣く時に乗せる肩」=「慰め役」「相談相手」のこと。
混み合う部屋
疲れた目の 仲間たち
僕は君と ―
その "氷の心" から 隠れてる
ああ 君を本気で ―
信じていたなんて
僕はただの "相談相手" だったんだね
A face on a lover with a fire in his heart.
A man under cover but you tore me apart, ooh-hoo.
Now I've found a real love, you'll never fool me again
ここの歌詞は、ほとんど「韻のため」に作られた感じ。
元の言葉にこだわり過ぎると、まともな訳はできません。
前半は、何となく汲み取れる意味から、内容を再構成します。
要は、大胆な意訳です。
"Now I've found a real love, you'll never fool me again"
「もう、本当の愛を見つけたんだ」
「(だから)君は、二度と僕を夢中にすることはできないよ」
嘘ですね。
精一杯の強がりという感じでしょうか。
ただ、このままでは長過ぎて、字幕に収まりません。
そこで、「強がり」を強調した意訳にしました。
恋する者には 燃える心があるものさ
僕も 胸に秘めてたけど ―
君は 振ったのさ …
もう 真実の愛を見つけたよ おあいにく様
Last Christmas
I gave you my heart
But the very next day you gave it away.
This year
To save me from tears
I'll give it to someone special
A face on a lover with a fire in his heart (I gave you my heart)
A man under cover but you tore him apart
Maybe next year I'll give it to someone
I'll give it to someone special.
Special...
Someone...
さて、フィニッシュです。
精一杯の強がり。
でも、やっぱり断ち切れない未練。
切ない余韻が美しいですよね。
クリスマスに 愛を捧げたけど
次の日 君は ―
放り投げたよね
今年は 涙を流さないよう ―
他の誰かに 捧げるよ
去年は 君に愛を捧げたけど
それは 次の日 ―
捨てられていた
今年は 泣きたくないからさ ―
他の誰かに 捧げるよ
恋する者には 燃える心があるものさ
僕も 胸に秘めてたけど ―
君は 振ったのさ …
(きっと僕は 次の年も)
誰か 特別な ―
"誰か" に捧げるつもりさ
特別な ―
誰かに …
いやぁ、字幕って本っ当に難しいもんですね。
ではまたお会いしましょう。
↓ 今回の曲はコチラ ↓
Wham! - Last Christmas
コメント
コメント一覧 (2)
いよいよクリスマスが近づいてきて、本来ならウキウキ気分なのですが、今年は特に暖冬で、雰囲気がイマイチの年ですね。
それに気のせいか、先週外主の際に感じましたが、以前ほどクリスマスソングが聞こえてこないような気がしました。
毎年そのクリスマスソングの中にはこの曲が入っていたのに・・・
もう懐かしい曲と言ってよい曲ですよね。
動画の和訳は、もう出来上がった画像見ながらの訳付けなのでしょうか?
と思ったのは、その他にも和訳付きのサイトの訳の中には、訳を読んでいたら、忙しくて、動画が見られないと言う物もあるからです。
でも、わやQさんのは、本当にいい塩梅に、曲も訳も画像も楽しめるタイミングにまとまっているので、凄~い!って思いました。
ワムは何時だかカミングアウトしたので、微妙な気分でこの曲を聞いてしまいます。(なんだか余計切なく感じてしまいます)
でも好きな曲の一つですから、楽しませてもらいました。クリスマスソングは、なんだか大きな愛を感じて大好きです。
多分子供のころから好きなお話「クリスマスキャロル」のスクル―ジさんがインプットされているのかもです。
皆がささやかでも、安らかな気持ちのクリスマスが迎えられると好いのですが・・・
わやQの字幕作成方法は、いつか記事にまとめようと思っていますが……
簡単に言うと、最初から「字幕用」に文字数を意識して訳します。
ある程度、イメージと音楽を身体に馴染ませてからの作業ですね。
その後、歌に合わせて訳と文字数を微調整します。
最後に、字幕のタイミングを、コンマ1秒の単位で合わせています。
更に動画投稿の際は、ブログに詳細な解説を載せることにしているので、他の字幕動画や和訳・対訳ブログの数倍、しち面倒くさ~いことをやっているんです。
完全に、自分の能力を超えています(笑)
ですから、更新が遅いことは許してくださいね。