字幕づくり 第74回


今回は、グレン・フライ追悼。
"Eagles" の "Hotel California" です。






1977年、圧巻のライブパフォーマンス。
こちらの映像に、日本語字幕を付けてみようと思います。







- Lyrics -


On a dark desert highway, cool wind in my hair
Warm smell of colitas, rising up through the air
Up ahead in the distance, I saw a shimmering light
My head grew heavy and my sight grew dim
I had to stop for the night
There she stood in the doorway;
I heard the mission bell
And I was thinking to myself,
"This could be Heaven or this could be Hell"
Then she lit up a candle and she showed me the way
There were voices down the corridor,
I thought I heard them say...

Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
Plenty of room at the Hotel California
Any time of year (Any time of year)
You can find it here

Her mind is Tiffany-twisted, she got the Mercedes bends
She got a lot of pretty, pretty boys she calls friends
How they dance in the courtyard, sweet summer sweat.
Some dance to remember, some dance to forget

So I called up the Captain,
"Please bring me my wine"
He said, "We haven't had that spirit here since nineteen sixty nine"
And still those voices are calling from far away,
Wake you up in the middle of the night
Just to hear them say...

Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
They livin' it up at the Hotel California
What a nice surprise (what a nice surprise)
Bring your alibis

Mirrors on the ceiling,
The pink champagne on ice
And she said "We are all just prisoners here, of our own device"
And in the master's chambers,
They gathered for the feast
They stab it with their steely knives,
But they just can't kill the beast

Last thing I remember, I was
Running for the door
I had to find the passage back
To the place I was before
"Relax, " said the night man,
"We are programmed to receive.
You can check-out any time you like,
But you can never leave! "








※今回のポイント※


「やりたいな」「やらなきゃな」と、ずっと思ってきた曲。
では、なぜ手を出さないままでいたのかと言うと、
それは「暗喩」が多すぎるからです。
楽曲の発表当初から、長い間「考察」が行われていますからね。

その40年に渡る「研究」の成果の数々が、
逆に字幕づくりを難しくさせるのです。

なぜなら「定説」と呼ばれる解釈が生まれたから。
「定説」となれば、訳にも取り入れざるをえません。
かと言って、字幕に「注釈」などは言語道断。
少ない文字数の中で「原詩のニュアンス」と、
「解釈(への誘導)」を両立させないといけません。

もっと言えば、その「定説」が本当に正しいのかどうか、
それは作詞したドン・ヘンリーにしか分からないことです。
(インタヴューなどで明かされた部分もありますが)
ですから、あくまでも「最大公約数」の訳を目指します。
取捨選択がとても重要になります。

また、この曲の持つホラー映画のような、
「不気味さ」や「閉塞感」を表現するため、
言い回しにも気を配ります。
映像が浮かぶような内容にしたいです。







On a dark desert highway, cool wind in my hair
Warm smell of colitas, rising up through the air
Up ahead in the distance, I saw a shimmering light
My head grew heavy and my sight grew dim
I had to stop for the night
There she stood in the doorway;
I heard the mission bell
And I was thinking to myself,
"This could be Heaven or this could be Hell"
Then she lit up a candle and she showed me the way
There were voices down the corridor,
I thought I heard them say...


"On a dark desert highway, cool wind in my hair"
前半は「夜の砂漠の高速道路」ということですが、
「の」が続くのが気持ち悪い。
「日の落ちた~」なども考えましたが、ちょっと長い。
そこで、「夜」を後半部分に持って来ました。
「砂漠のハイウェイ、夜風が髪を撫でる」

"Warm smell of colitas, rising up through the air"
「コリタスのあたたかい匂いが、空に立ち昇っている」
この「コリタス」は、砂漠の花のことらしいのですが、
ここでは「マリファナ」を指すというのが定説です。
確かに「あたたかな匂い」は容易に「煙」を連想させますし、
「満ちている」のではなく「立ち昇る」のも納得。
ただ、本来は「コリタス」と「ぼかして」書いてある。
そうであれば、字幕でも同じようにしたい。
でも、「マリファナ」感も出したい。
そこで、「コリタス」を「ハッパ」と訳しました。
「葉っぱ」を片仮名にするだけで、すごく怪しくなりますね!

"My head grew heavy and my sight grew dim"
「頭が重くなってきて、視界もぼやけてきた」
これは「長距離運転での疲れ」とも考えられますが、
「ハッパが効いてダウナーな状態」の暗喩でもあると思います。

"I heard the mission bell"
"mission" と言うと、すぐに「任務」が浮かびますが、
形容詞の場合は「伝道の」とか「布教の」という意味合いに。
ミッションスクールとかの "mission" ですね。
本来は「(宗教的な)使命」の意味合いが強かったのでしょう。

"There were voices down the corridor"
「声がする」と言っています。
どこから? "down the corridor"
"corridor" は、客室が並んでいる「通路」「廊下」「回廊」。
ホテルなんかで、部屋に移動する時を想像してください。
ここでの "down" は、「自分から離れた方向」のニュアンス。
電車や道路の「上り」「下り」みたいなもんです。
つまり "down the corridor" は「廊下の方から」の意味。



 砂漠のハイウェイ
 夜風が 髪を撫でる
 あたたかな "ハッパ" の匂い ―
 夜空に 立ち昇る
 遥か遠くに ―
 光が 揺らめいた
 頭は重く 目も霞む
 今夜は もう走れそうにない

 女が 戸口に立っていて ―
 俺は "礼拝の鐘" を聞いたんだ
 ふと思ったよ ―
 「天国 それとも地獄かな」って
 彼女は 蝋燭に火をつけ ―
 案内をしてくれた
 廊下の方から 声が聞こえる
 俺の耳には ―






Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
Plenty of room at the Hotel California
Any time of year (Any time of year)
You can find it here


あまりにも有名なこのフレーズ。
色々な人が、様々な訳をしています。
でも、誤訳もすごく多いのです。
なぜ誤訳が多くなるかと言うと、
「誰が言っているのか」を取り違えてしまうから。

冒頭の "Welcome to the Hotel California"
まず、日本人の感覚だと「ホテルのスタッフ」の言葉です。
だから「ホテル側」としてここを訳してしまう。

でも考えてみてください。
声が聞こえてきたのはどこからですか?
「廊下」ですよね?
「フロント」ではなく「客室」から聞こえているんです。
つまりここに泊まっている「客たち」の声です。

そのニュアンスを伝えるため、
このサビの部分は、老若男女、様々な語尾を使い分けます。



 「ようこそ ホテル・カリフォルニアへ」
 「素敵な所よ」
 「いい人ばかりさ」
 「お部屋なら たくさんありますから」
 「年中 いつでも ― 」
 「見つけられますよ」






Her mind is Tiffany-twisted, she got the Mercedes bends
She got a lot of pretty, pretty boys she calls friends
How they dance in the courtyard, sweet summer sweat.
Some dance to remember, some dance to forget


"Her mind is Tiffany-twisted, she got the Mercedes bends"
ここは余計な解釈を挟むよりは、直訳の方が雰囲気が出ます。
特に "Mercedes-Benz" ではなく "Mercedes bends"
なんてしてる辺りに、強い揶揄が感じられます。

"sweet summer sweat"
この曲は、いわゆる「産業ロック」への批判として捉えられています。
そうなると、この "summer" にも意図を感じます。
今でも「夏フェス」は盛況ですしね。



 彼女の心は ティファニーの "ねじれ"
 メルセデスの "曲がり" を持っている
 若く 美しい男を はべらせ ―
 「友達よ」とうそぶく

 中庭で ダンスに興じ ―
 甘美な "夏" の汗を流す
 "忘れぬ" ための踊り
 "忘れる" ための踊り






So I called up the Captain,
"Please bring me my wine"
He said, "We haven't had that spirit here since nineteen sixty nine"
And still those voices are calling from far away,
Wake you up in the middle of the night
Just to hear them say...


"So I called up the Captain"
この "captain" は、米語で「ボーイ長」や「給仕長」のこと。

"Please bring me my wine"
「俺の(指定銘柄)のワインを持ってきてくれないか」
と言うと、給仕長が次のように返すワケです。

"We haven't had that spirit here since nineteen sixty nine"
「そのような "spirit" は、1969年から置いてありません」
この "spirit" は「酒」であると同時に「魂」の意味でもあります。
そして「1969年」は、あの「ウッドストック・フェスティバル」の年。
つまり「ウッドストック以来、ロックに魂なんてありませんよ」
そうとも受け取れる内容になっているのです。

ここで面白いのは、「スピリッツ」=「蒸留酒」なのですが、
なぜか「ワイン」=「醸造酒」を頼んでいるところ。
また深読みできそうです。



 俺は 給仕長を呼び
 「俺好みのワインを」 すると ―
 「そのようなスピリッツは 置いておりません」
 「1969年以来」
 あの声が まだ呼び続けている ―
 遥か 彼方から
 真夜中に お前は目を覚ます
 ほら 聞こえるだろう






Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
They livin' it up at the Hotel California
What a nice surprise (what a nice surprise)
Bring your alibis


"They livin' it up at the Hotel California"
"livin' it up" は「パーッとやる」イメージです。

"What a nice surprise"
これは、友人に偶然会った時などに、
「いやー、久しぶりだなー」みたいに使われます。
「(君と会えるなんて)嬉しいサプライズだなー」
そんな感じです。

"Bring your alibis"
直訳すれば「アリバイを持って来なさい」です。
このホテルに泊まるのは「やましいこと」なんでしょう。
これも、何かを揶揄していますね。



 「ようこそ ホテル・カリフォルニアへ」
 「素敵な所よ」
 「いい人ばかりさ」
 「ここでは みんな贅沢するんだ」
 「なんと 喜ばしい!」
 「アリバイを忘れずに」






Mirrors on the ceiling,
The pink champagne on ice
And she said "We are all just prisoners here, of our own device"
And in the master's chambers,
They gathered for the feast
They stab it with their steely knives,
But they just can't kill the beast


"They stab it with their steely knives"
「彼らは(それぞれ)"steely knives" で突き刺す」
この "steely knives" とは何か?
なぜ「鋼のナイフ」ではなく「鋼のようなナイフ」なのか?
実はこれも「定説」がありまして、
米バンド「スティーリー・ダン」のことと言われています。
わざわざ "steely" と言っているのだから、間違いないでしょう。
でも、字幕でそれを表現するのは無理そうなので、
今回は単に「ナイフ」とだけ表記しました。



 鏡張りの天井
 冷えた ピンク・シャンペン
 「私たちは 囚われているのよ」
 「自らの意思でね」
 支配人の部屋には ―
 "祝宴" を待つ人々
 彼らは "ナイフ" で突き刺すが ―
 決して "獣" を殺せはしない





Last thing I remember, I was
Running for the door
I had to find the passage back
To the place I was before
"Relax, " said the night man,
"We are programmed to receive.
You can check-out any time you like,
But you can never leave! "


"We are programmed to receive"
「私たちは、受け入れるようにプログラムされている」
これは「外からの客を受け入れる」とも読めますが、
「この状況を受け入れるように仕組まれている」
こちらの方がしっくりくると思います。

"You can check-out any time you like"
"But you can never leave! "
「あなたが好きな時に、いつでもチェックアウトできますよ」
良かった、フロントから急かされたりしないんですね。
「しかし、決してここから出ることはできないのだ!」
ええぇ……。

物語が、唐突に終わりを迎えるこの感じ。
恐ろしいですねえ。
しかも、"check-out" は俗語で「自殺」の意味もありますからね。
「死ぬのはご自由に。でも、そんなことでは逃げられませんよ」
そんな風に考えると、今夜はおトイレに行けそうもありません。

この恐怖を表現するには、夜警のセリフよりも前半部分が重要。
恐怖から逃れる切迫感が必要です。
上手く表現できたでしょうか?
 


 最後の記憶で 俺は ―
 ドアに向かい 駆けている
 帰り道を 見つけなければ
 元居た場所へ 帰るんだ
 「落ち着いて」 夜警が言う
 「受け入れるよう 決められているのです」
 「チェックアウトは 自由ですが ―」
 「立ち去れはしませんよ!」











かつて「ロック」は「反骨の象徴」でした。
一部では、「反社会的」とすら言われた時代もあります。

しかし、「ロック」がビジネスとして大きな金を生む時代となり、
次第にその「精神」が失われていきます。
その大きな流れを、誰にも止めることはできなかったでしょう。

かくして現在、「ロック」を「反社会的」と思う人はいなくなりました。
反面、もう「ロック」を「反骨の象徴」とは感じません。
きっと多くのミュージシャンが、このホテルに行ってしまったのでしょう。

ただ、わやQが子どもの頃には、まだ一部の大人の間で、
「ロックは悪い音楽」という空気があったのも事実です。
つまり、彼らの「アリバイ」は、それなりに有効だったというワケですね。




さて、この記事では、あまり「考察」や「解釈」は行っていません。
あくまで、字幕作成に必要最低限の知識だけになっています。

もし興味がある方は、
各種考察サイト・ブログでチェックしてみてください。

マック・ユーザーだった時の
「ホテル・カリフォルニア問題」が懐かしいなー(笑)




いやぁ、字幕って本っ当に難しいもんですね。
ではまたお会いしましょう。






※今回のライブは、コチラに収録されています※



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↓ 今回の曲はコチラ ↓



Eagles - Hotel California




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ベスト版
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