字幕づくり 第75回
今回も、グレン・フライ追悼。
"Eagles" の "Desperado" です。
2004年 "Farewell I Tour: Live From Melbourne" の映像です。
この映像に字幕を付けてみましょう。
- Lyrics -
Desperado, why don't you come to your senses?
You been out ridin' fences for so long now
Oh, you're a hard one
I know that you got your reasons
These things that are pleasin' you
Can hurt you somehow
Don't you draw the queen of diamonds, boy
She'll beat you if she's able
You know the queen of hearts is always your best bet
Now it seems to me, some fine things
Have been laid upon your table
But you only want the ones that you can't get
Desperado, oh, you ain't gettin' no younger
Your pain and your hunger, they're drivin' you home
And freedom, oh freedom well, that's just some people talkin'
Your prison is walking through this world all alone
Don't your feet get cold in the winter time?
The sky won't snow and the sun won't shine
It's hard to tell the night time from the day
You're losin' all your highs and lows
Ain't it funny how the feeling goes away?
Desperado, why don't you come to your senses?
Come down from your fences, open the gate
It may be rainin', but there's a rainbow above you
You better let somebody love you (let somebody love you)
You better let somebody love you before it's too late
※今回のポイント※
前回の "Hotel California" は、
"Eagles" でしか表現できない世界だと感じています。
だから「彼らの最盛期のパフォーマンスを冷凍保存したい!」
そんな風に考えてしまいます。
しかし、今回の "Desperado" は、
多くの人に歌い継がれることこそが重要だと考えます。
そうして「生き続ける曲」ではないでしょうか?
さて、肝心の内容ですが、これも深読みができてしまいます。
「ベトナム戦争後のアメリカについて歌っている」の様に、
興味深い指摘はたくさんあるのですが、今回はスルー。
ストレートに、旧友へ語りかけるイメージで作りたいと思います。
もちろん、元々が「西部開拓時代」がコンセプトなので、
その雰囲気もできるだけ壊さないように心がけます。
Desperado, why don't you come to your senses?
You been out ridin' fences for so long now
Oh, you're a hard one
I know that you got your reasons
These things that are pleasin' you
Can hurt you somehow
"Desperado" まずはこの言葉が重要です。
「(開拓時代の)無法者、命知らず、犯罪者」の意味。
日本では、長い間「ならず者」の訳詩で親しまれてきました。
でも、最近の若い人の間では「ならず者じゃピンとこない」と、
意訳したり、訳さずに「デスペラード」とする人も多いようです。
わやQは、この "Desperado" =「ならず者」という訳は、
なかなかの名訳だと思っています。
この曲で歌われる "Desperado" は、
「無法者、命知らず、犯罪者」という感じではありません。
かと言って、変に意訳すると「西部劇」の雰囲気がなくなります。
「流れ者」も、少しニュアンスが違いますからね。
そんなワケで、今回は昔ながらの「ならず者」を採用。
これには、別の意図もありますので、字幕では強調します。
その謎は、曲の最後で解けるでしょう。
"why don't you"
「どうして~しないんだい?」転じて「~したらどうだい?」
"come to one's senses"
「正気に返る」「冷静になる」「目が覚める」など。
"You been out ridin' fences for so long now"
「長い間ずっと、柵の上に乗っかっている」
おそらく「意地になっている」と「地に足をつけていない」
この二つの比喩だと思います。
"you're a hard one"
この "hard one" を「頑固」と訳している人が多いと思います。
間違ってはいませんが、ちょっと面白くありません。
もし、自分が聞き分けのない旧友と話しているなら、
少しため息混じりにこう言うと思います。
「まったく、難儀なヤツだなあ」こんな感じ。
"I know that you got your reasons
These things that are pleasin' you
Can hurt you somehow"
「お前には、お前の理由があるのは分かってるよ」
「そのお前を満足させる(納得している)その理由ってのが、
お前を(何らかの形で)傷つけるかもしれないぜ」
"ならず者" よ ―
そろそろ 目を覚ましたらどうだ?
長いこと 柵の上で ―
そうしているんだぜ
難儀なヤツだよ
お前にも 言い分はあるだろうが
そいつが お前を ―
傷つけもするんだぜ
Don't you draw the queen of diamonds, boy
She'll beat you if she's able
You know the queen of hearts is always your best bet
"She'll beat you if she's able"
「もし彼女が有能なら、彼女はお前をひどい目にあわせるぜ」
この「彼女」は「ダイヤのクイーン」のこと。
そして「ダイヤのクイーン」は「お金」の暗喩と考えられます。
「金に振り回されちまうぞ」ということでしょうか?
でも、字幕で細かい解説はできませんので、
「そいつは危険なんだ」と短く意訳。
"ダイヤのクイーン" は やめとけよ
そいつは 危険なんだ
"ハートのクイーン" こそ ―
いつだって "最良の手" だろ?
Now it seems to me, some fine things
Have been laid upon your table
But you only want the ones that you can't get
ここも引き続き、カードゲームをイメージしています。
字幕用の文字数調整が必要なので、少し意訳も。
いい手が 揃っていると思うぜ ―
お前の 手元にはさ
けど 手に入らないものばかり ―
求めるんだな
Desperado, oh, you ain't gettin' no younger
Your pain and your hunger, they're drivin' you home
And freedom, oh freedom well, that's just some people talkin'
Your prison is walking through this world all alone
"Your pain and your hunger, they're drivin' you home"
「お前の痛みとお前の飢え、そいつがお前を家に運ぶ」
これは「お前と一緒に帰るのは、痛みと飢えだけ」と言えるかも?
"Your prison is walking through this world all alone"
これの面白いのは "Your prison" になっている所。
"You are prisoner" ではないんですよね。
だから直訳すると、
「お前の刑務所が、たった一人でこの世界を歩いている」
なんだか不思議な文章ですよね。
これを、わやQ的に解釈すると、次のようになります。
"ならず者" よ ―
もう 若くはないんだぜ
痛みと 飢えが ―
お前を 家に送るのさ
そして 自由 ―
ああ 自由か …
そんなこと言うヤツもいるってだけさ
お前は 孤独に世界を歩いているんだ ―
檻の中でな
Don't your feet get cold in the winter time?
The sky won't snow and the sun won't shine
It's hard to tell the night time from the day
You're losin' all your highs and lows
Ain't it funny how the feeling goes away?
ここは難しくありません。
ただ、長々しい訳ではテンポが悪くなるので注意。
冬になれば 足が凍えないか?
雪も降らず 日も昇らない
昼と夜の区別も ―
つきやしない
喜びも 悲しみも失い
感情まで 無くしちまって ―
嬉しいかよ?
Desperado, why don't you come to your senses?
Come down from your fences, open the gate
It may be rainin', but there's a rainbow above you
You better let somebody love you (let somebody love you)
You better let somebody love you before it's too late
ここが最後のパートです。
この "Desperado" を「なあ、友よ」にします。
これまで旧友を「ならず者よ」と呼んでいました。
それは、少しばかりの揶揄を込めた「あだ名」。
そして今、もう一歩踏み込んで語りかける。
そんなイメージ。
"Come down from your fences, open the gate"
「意地を張るのをやめ、心を開く」ことの比喩。
でも、分かりやすい比喩なので、そのまま直訳が良いでしょう。
"You better let somebody love you"
「誰かが愛してくれるような自分に、なった方がいいぞ」
これは2回繰り返されるので、ここで仕掛けを発動します。
そう、最初に仕掛けた「ならず者」です。
一体、どのような効果が得られるのでしょうか?
なあ 友よ ―
もう 目を覚ます頃合だろ?
その柵から 降りてさ
扉を開けよ
例え 雨でも ―
お前には 虹が架かるさ
愛されるようになれよ
そう "愛される者" に …
今なら まだ ―
遅くないさ
答え合わせ:
「ならず者」から「愛される者」に。
そういう対比を狙ってみました。
どうしようもないヤツだけど、昔から知る友人。
そんな旧友に語りかける。
諭すように、ゆっくりと。
根気強く、諦めず。
わやQは、どちらかと言うと諭される方。
いやぁ、字幕って本っ当に難しいもんですね。
ではまたお会いしましょう。
↓ 今回の曲はコチラ ↓
Eagles - Desperado
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そして、的確な和訳も・・・私が彼らがお気に入りなのは、しっかり皮肉った歌詞の詩を歌っているからです。
色々な人が和訳していますが、本当にイーグルスが伝えたかった事を意識した訳は今の所わやQさんだけかな?と思います。
この時代はアメリカも混沌とした時代で、色々な運動が起きたり、カウンターカルチャーを背景に、西欧も安定していないしと言う中で、彼らは世界に向けて、友よと呼びかけもしたし、ダイヤのクィーんじゃぁなく、ハートだよと歌ったと私は思っていたので、的確な日本語に訳してくださっていて、大いに満足で、スッキリ気分です。
勝手に私が思っていたことだったかしら?
私の英語力は本当に日本語にうまく変換しないフィーリングだけの英語なのでいつも、なんか変?で終わってしまうんです。
土曜日に遊び友達が来たので、洋楽の話したら、ボウィの事は知っていましたが、イーグルス破局だけわやQさんおっしゃるとおりに、あぁ、聞いた事あると言いましたが、彼女のハマっている韓ドラの話で押し切られて、がっかりしていたところでした・笑
お疲れ様でした。どうもありがとう。
よーく分かります。
でも、趣味や感性が違うお友達がいるというのは、素晴らしい財産かもしれませんね。
それだけ世界が広がるワケですから、「ガッカリ」もまた財産。
失望や無力感を経験しているからこそ、名曲も生まれるのです!
なんて、自己啓発本ぽくまとめてみました(笑)